9.3億円の1件で墨田区の平均が283万円動いた ― 平均と中央値と件数しきい値の話
1件で9億3,000万円の成約が入っただけで、区全体の平均価格が約283万円も跳ね上がる。「平均値」の罠と、前年比+259%といった外れ値ランキングが生まれた開発裏話、そして中央値と件数しきい値で解決した設計を解説します。
1. まさかの現象:1件の「大富豪」で区の相場が283万円も動くってどういうこと?
「いや、たった1件で区の平均が283万円も動くって、どんなバグですか。」
思わず画面にツッコミを入れてしまいました。私たちが開発している「物件目利きリサーチ」では、国交省「不動産情報ライブラリ」の成約価格情報を四半期ごとにバッチで取得し、BigQueryに保存して集計しています。しかし、データの中身をじっくり眺めていたとき、とんでもない現象を見つけてしまったのです。
対象は、東京都墨田区における2026年第1四半期の成約データ(全種別308件)です。この期の平均取引価格は約6,382万円でした。ところが、価格の真ん中をとる「中央値」を見てみると、なんと5,000万円だったのです。
平均と中央値で、1,300万円以上のズレがあります。なぜこんなに離れているのかと内訳を調べてみたら、犯人はすぐにわかりました。向島エリアの「宅地(土地と建物)」で、9億3,000万円という特大の成約が1件入っていたのです。
試しに、この最も高い9億3,000万円の1件だけを計算から除外してみました。すると、307件の平均取引価格は約6,099万円に落ち着きました。つまり、たった1件の大型取引が入っただけで、308件全体の平均を約283万円も一人で引き上げていたことになります。
「土地付きの大型取引が混ざっていたからでしょ? マンションだけなら大丈夫では?」と思いますよね。私たちもそう思いました。そこで、同じ期の「中古マンション等」だけ(246件)に絞って集計してみました。
すると、今度は㎡単価の最小値と最大値に目を疑いました。下は28.8万円/㎡から、上は237.5万円/㎡まで、同じ区・同じ四半期の中古マンションなのに約8倍の開きがあったのです。その結果、平均㎡単価は約108.6万円、中央値は約104.5万円と、ここでもやはりズレが生じていました。
不動産データにおいて、なにも考えずに「平均」を出すことがいかに危ういか。私たちは身をもって思い知ることになりました。
2. 原因調査の沼:前年比「+259%」の謎エリアがランキングを埋め尽くす
なぜ「平均」はこれほどまでに暴れるのでしょうか。原因はシンプルですが、不動産データ特有の深い沼がそこにはありました。
そもそも「平均(算術平均)」は、全員の合計を人数で割る計算です。たとえば10人の飲み会で、9人が年収500万円でも、1人だけ年収10億円の大富豪が混ざれば「この飲み会の平均年収は1億円です!」となってしまいます。不動産でもこれとまったく同じことが起きます。一般的な例えとして、タワーマンションの上層階や、先ほどの向島のような土地付きの大型取引が1件混ざるだけで、平均は高額な1件に引っ張られるのです。
さらに、ワンルームの中古マンションと、広い土地付きの戸建てやビルなど、異なる物件種別を混ぜて平均を出してしまうと、当然ながら総額が大きい土地付きの取引に引っ張られてしまいます。
この「外れ値の罠」がもっとも牙をむいたのが、新機能として「価格ヒートマップ」の前年比ランキングを作っていたときでした。
「いま一番値上がりしているエリアはどこか?」を可視化しようと、町丁目ごとに㎡単価の前年比を計算してランキングを出力してみたのです。すると、画面には目を疑うような数字が並びました。
なんと、取引が10件ある町丁目で「約3万円/㎡ → 11万円/㎡(+259%)」といった、暗号資産の暴騰みたいな外れ値がランキングの上位を占めてしまったのです。「いや、1年で価格が3.5倍になる町丁目ってどこよ!」と、またしても画面にツッコミを入れる羽目になりました。
さらに条件を緩めて「取引3件以上」で前年比を計算してみたところ、全国の変動幅が−75%〜+255%にまで吹き飛びました。もう相場分析どころではありません。たまたま前年に古い格安物件が数件売れ、翌年に新築に近い物件が数件売れただけの「取引件数が少ないエリア」が、ランキングをジャックしてしまったのです。
SQLの集計クエリ自体はエラーなく一瞬で走るため、こうした統計上の「バグではない異常値」は、実際に画面に出して人間の目で確認するまで気づきにくいという厄介さがありました。
3. こうして解決した:中央値の採用と「しきい値」の防波堤
「平均は1件の金持ちに弱い。そして少数の取引はノイズだらけ。」
この教訓を踏まえ、開発チームではデータの集計ロジックと画面の見せ方を根本から見直しました。私たちが実装した解決策を、まずは表にまとめます。
| 対象機能・項目 | 改善前の状態・課題 | 改善後の仕様(解決策) |
|---|---|---|
| 相場調査(トップページ) | 全種別の平均だけを見ると、高額な1件や土地付き取引に引っ張られる | 「平均取引価格」のカードに中央値を併記し、物件種別で絞って読むよう案内 |
| 価格ヒートマップの㎡単価 | 単発の高額取引や少数のデータで単価がブレやすい | 直近4四半期の中央値を採用し、一時的な外れ値の影響を排除 |
| ヒートマップの前年比(地図) | わずか3件の計算で−75%〜+255%まで吹き飛ぶ | 前年・当年ともに両期間とも10件以上ある地区だけ算出 |
| ヒートマップのランキング | 単価3万→11万円(+259%)のような極端な町丁目が上位を占める | 市区町村は30件以上、町丁目は10件以上、かつ前年の単価10万円/㎡以上をしきい値に設定 |
具体的に工夫したポイントは大きく3つあります。
- 「平均」の横に「中央値」を並べる: トップページの相場調査では、四半期ごとの「取引価格推移」のグラフは平均値で描画していますが、「平均取引価格」のカードには中央値を併記するようにしました(なお、期ごとの中央値の推移グラフはありません)。平均と中央値の差を見ることで、「あ、この期は高額な取引が混ざって平均が跳ねているな」と一目で気づけるようになっています。あわせて、画面上では物件種別で絞って読むよう案内しています。
- ヒートマップの基準を「直近4四半期の中央値」にする: 町丁目単位の細かいエリアを見る価格ヒートマップでは、1四半期だけだと件数が少なくなるため、直近4四半期分のデータを束ねて中央値をとる設計にしました。これで、たまたま出た1件の超高額物件に町丁目の色が塗り替えられるのを防いでいます。
- 件数と単価の「しきい値(足切りライン)」を設ける: 前年比を計算する際は、比較する両方の期間ともに10件以上の成約がある地区だけに限定しました。さらにランキングでは、市区町村単位で30件以上・町丁目単位で10件以上という件数条件に加え、「前年の単価が10万円/㎡以上」という条件も追加しました。これにより、前年の単価が約3万円/㎡だったために+259%になってしまうような、分母が小さすぎるゆえの異常値をきれいに弾くことができました。
BigQueryから市区町村ごとの静的ファイルを生成するバッチ処理にこれらの条件(しきい値)を組み込んだことで、ようやく実務の感覚とズレない、落ち着いたヒートマップとランキングが出力されるようになりました。
4. 物件目利きリサーチでどう便利になったか
今回のしくじりから得た最大の学びは、相場を語るときは、種別をそろえ、中央値と件数を一緒に見るという当たり前の基本でした。
不動産の実務において、「この区の平均価格は6,382万円です」と数字だけを鵜呑みにすると、実は中央値が5,000万円だったときに大きく相場観を誤ってしまいます。仲介の査定で売主様に説明する際も、買取の再販価格を見積もる際も、「種別を絞ったらどうなるか」「中央値と平均がどれくらい離れているか」「その数字は何件の成約から計算されたものか」をセットで確認することが欠かせません。
現在の「物件目利きリサーチ」では、こうしたデータの罠にはまらないための工夫が最初から画面に組み込まれています。
まず、トップページの「相場調査」にある物件種別フィルタや地区名の絞り込みは、無料のFreeプランを含む全プランでご利用いただけます(Freeプランの相場調査は、ログインユーザーなら1日3回、未ログインでも1日1回まで無料でお試し可能です)。まずは気になる市区町村を選び、物件種別を「中古マンション等」や「宅地(土地と建物)」に絞り込んだうえで、平均取引価格のカードに並んだ平均と中央値を見比べてみてください。
そして、「市区町村全体の数字だけでなく、どの町丁目の単価が高くて、どこが本当に値上がりしているのかを地図でパッと見極めたい」という方には、直近4四半期の中央値と厳密な件数しきい値で外れ値を抑え込んだ、Proプラン(月額980円)の「価格ヒートマップ」をぜひご活用ください。
関連する機能とマニュアル
よくある質問
- 相場調査で物件種別を絞り込んだり中央値を確認したりするのに料金はかかりますか?
- トップページの相場調査における物件種別や地区名の絞り込み、および平均取引価格カードでの中央値の確認は、無料のFreeプランを含む全プランでご利用いただけます。Freeプランの場合、相場調査はログインユーザーで1日3回、未ログインで1日1回まで可能です。より多くの回数を調査したい場合は、月額980円のProプランや月額3,980円(または年額39,800円)のBusinessプランをご検討ください。
- 取引価格推移のグラフでも四半期ごとの中央値の推移は見られますか?
- いいえ、取引価格推移のグラフは四半期ごとの平均値を表示しており、期ごとの中央値の推移は表示されません。中央値は「平均取引価格」のカードにのみ併記される仕様となっています。高額な取引に引っ張られないよう、まずは物件種別フィルタで種別をそろえてから推移グラフやカードの数値を読み取ることをおすすめしています。
- 価格ヒートマップで前年比が表示されない町丁目があるのはなぜですか?
- 少数の取引による極端な外れ値を防ぐため、価格ヒートマップの前年比は比較する両期間ともに成約が10件以上ある地区のみ算出しています。また、ランキング表示においても市区町村で30件以上、町丁目で10件以上、かつ前年の単価が10万円/㎡以上というしきい値を設けています。なお、価格ヒートマップは月額980円のProプラン以上でご利用いただけます。
